今回は大塚製薬の絶妙なバランスの抗精神病薬「エビリファイ」について開発ストーリーを、図やイラストを用いて解説します。

革新的な薬がどのような経緯で研究開発されたのか興味ある!
わかりやすく教えて欲しい!

新薬開発の成功確率は「3万分の1」と言われています。
そんな奇跡とも言える成功の裏には、様々な分野のプロフェッショナルが力を合わせて、失敗を恐れず果敢に挑んだ「研究者たちのドラマ」があります!

3万分の1って無謀すぎる。。。

そうだよね!今回はそんな研究者たちの挑戦の物語を紐解きます!
新薬開発に関心のある一般の方も理解できるように、わかりやすく説明します!
エビリファイってどんな薬?
エビリファイ(アリピプラゾール)は、2002年に米国で発売開始された抗精神病薬です。
主に「統合失調症」の治療に用いられています。
エビリファイはピーク時に、年間売上高約6500億円を叩き出し、
これにより、一躍、大塚製薬はグローバル企業の仲間入りを果たしました。

そもそも、統合失調症って何?

脳内の情報を統合する機能が低下して、幻覚や妄想などの症状が出る病気だよ。

かつては精神分裂病と呼ばれていて偏見も酷かったんだ。。。

エビリファイって何がそんなに画期的だったの?

薬の効果が強すぎず、弱すぎず、「絶妙なバランス」の薬だったことだね!
これから詳しく分かりやすく解説します!
まずは、エビリファイが開発される以前の抗精神病薬の開発の歴史から
エビリファイ以前の抗精神病薬の歴史
まずは、エビリファイが開発される以前の時代背景を解説します。
第一世代 抗精神病薬の登場
抗精神病薬の歴史は1950年代に遡ります。
1952年に最初の抗精神病薬「クロルプロマジン」が発見されました。
この薬は、後に「ドーパミンを抑制する」作用を持つことが判明しました。

ドーパミンって、脳で放出される「やる気を出させる成分」だよね!
ドーパミンを抑制ってどういうこと?

下図のような神経伝達物質だよ!

脳内では、非常にたくさんの神経細胞が互いにシナプスで結び付き合いながら情報を伝達しているんだけど、
その神経細胞同士には「隙間」があって、ドーパミンなどの神経伝達物質がその隙間を行き来することによって、情報を伝えているんだ!

第一世代抗精神病薬では、ドーパミンが結合しないようにすることで、情報伝達を抑え込み、幻覚や妄想などの症状を改善したんだ!
具体的には、第一世代抗精神病薬は、シナプス後部に存在するドーパミンD2受容体を遮断する薬です。
第一世代 抗精神病薬の問題点
しかし、第一世代抗精神病薬は、ドーパミンを徹底的に抑え込むという特徴をもつため、2つの問題点がありました。
陰性症状に効果なし
陽性症状(幻覚、妄想など)への効果はある反面、
陰性症状(意欲の低下、感情が乏しくなるなど)への効果は不十分でした。
重篤な副作用
錐体外路症状と呼ばれる、ドーパミンの不足で起こる運動障害などが問題となっていました。

第一世代抗精神病薬はドーパミンを無理やり押さえ込んでるって感じだね。。。

そうだね。。。
これ以降は、世界中の製薬企業により、「陽性症状と陰性症状の両方に効果がある」さらに「副作用がない」薬剤の開発競争が始まるよ!
第二世代 抗精神病薬の登場
1990年代になると、第一世代の問題点を解決するために、第二世代の抗精神病薬が登場します。
この第二世代は大きく2つに分類されます。
一つ目は、第一世代で標的となっていたドーパミンD2受容体だけでなく、
他の様々な受容体も遮断する薬です。(多元受容体標的化抗精神病薬とも呼ばれる)
二つ目は、ドーパミンだけでなく、セロトニンと呼ばれる情報伝達物質も抑制する薬です。
(セロトニン・ドーパミン受容体遮断薬とも呼ばれる)

第二世代では、標的の種類を増やしたんだね!

でも、第二世代では、有効性も副作用も改善していないという見方が多いよ。。。

大塚製薬は、この2つとは別の全く新しいアプローチにより、第三世代抗精神病薬であるエビリファイを開発するよ!
大塚製薬によるエビリファイの開発ストーリー
時代を少し遡って、大塚製薬が抗精神病薬の研究開発に取り組み始めた経緯から紐解きます。
失敗から始まった抗精神病薬の研究
1971年に創薬研究部門を設立して、自社医薬品の開発に着手した大塚製薬は、
抗精神病薬とは全く別の分野で「眠くならない抗ヒスタミン薬」の研究開発を進めていました。
しかし、この薬は、脳へ届けられないと考えられていましたが、
動物実験の結果、予想外に睡眠を増強する作用が高まりました。
この失敗を受けて、抗ヒスタミン薬の開発は中止されました。
しかし、「脳内に届いて効き目がある薬を開発すること」は現在でもなお難しいことです。
これに着目した大塚製薬は、1978年から、抗精神病薬の研究開発に着手しました。

失敗をポジティブに捉えて、次へのチャレンジに繋げたんだね!

普通は諦めてしまうかもしれないけど、失敗した実験からも、得られることはたくさんあるよ!
大塚製薬は、その小さな発見も見逃さず次への挑戦に繋げたんだね!
新たなターゲットに着目
自己受容体を作動させろ
1975年に、スウェーデンの神経精神薬理学者であるアーヴィド・カールソン博士は、
シナプス前部に「ドーパミンの合成や放出を抑制する受容体」があることを提唱し、これを自己受容体と名付けました。

受容体ってさっきから出てくるけど何?

反応が始まるスイッチのようなものだよ!
自己受容体にドーパミンが結合すると、スイッチONになり、ドーパミンの合成や放出が抑制される反応が始まるよ!
大塚製薬では、このシナプス前部の自己受容体に着目して、創薬を進めました。

従来の薬は、シナプス後部のスイッチ(ドーパミンD2受容体)に着目していたけど、大塚製薬はシナプス前部のスイッチ(自己受容体)に着目したんだね!

そうだね!
自己受容体を作動させる薬であれば、ドーパミンの産生や放出を少なくできることが考えられるね!
陽性症状に効果なし
しかし、この自己受容体を作動させる作戦も失敗に終わります。
試行錯誤を繰り返し、動物実験でドーパミン自己受容体に作用することを確認できた化合物を作り出すことに成功しました。
しかし、期待されていた臨床試験では、陽性症状(幻覚、妄想など)を悪化させてしまうという結果になってしまいました。

自己受容体を作動させるだけでは不十分なのかな?。。。

そうだね。。。
でも、確かに陰性症状には有効で、懸念されていたドーパミンの不足による副作用はほとんどなく、あと少しところまで迫っていたんだ!
欲張りな仮説
大塚製薬の失敗と同様に、世界中の製薬企業もことごとく失敗を重ね、
ついには、「陽性症状と陰性症状の両方に効く薬はできっこない」と諦めモードに入っていました。
しかし、大塚製薬はここで「欲張り」とも言える仮説を立てます。
「シナプス前部の自己受容体に作用する効果」と「シナプス後部の受容体を遮断する効果」の2種類の作用を両方持たせれば、
「陽性症状」と「陰性症状」の両方に効果があり、「副作用がない」薬になると考えたのです。
1986年になり、この仮説に基づいた新たな抗精神病薬のプロジェクトが立ち上がりました。
翌年の1987年には、動物実験で、陽性症状にも効果がある化合物を作り上げることに成功しました。

やっと陽性症状にも効く薬の開発に成功したんだね!

ここまで来るのに、10年もの間、たくさんの失敗を重ねながらもめげずに試行錯誤を重ねた努力の賜物だね!
エビリファイにはこれ以外にも素晴らしい特性があるよ!
米国で、1993年から治験を開始し、2002年に統合失調症の薬として承認され「エビリファイ」が誕生しました。
絶妙なバランス
エビリファイの最大の特徴は、その効き目の絶妙なバランスです。
具体的には、受容体への部分作動薬(パーシャルアゴニスト)であることです。
このことにより、下図に示すように、
ドーパミンが過剰な時は、抑制する作用が働き、
逆に、不足している時は、活性化する作用が働きます。
このアプローチは、第二世代までの抗精神病薬とは全く異なるものであり、
世界で唯一の第三世代抗精神病薬となりました。

「過ぎたるは、なお及ばざるが如し」だね!

何事においても、丁度良い「あんばい」が大事と言えるね!
まとめ
まとめると、
・統合失調症には「陽性症状」と「陰性症状」の相反する2つの症状がある。
・エビリファイ以前の薬(第一世代、第二世代)では、ドーパミンを徹底的に遮断することを目指していた。
・エビリファイは、絶妙なバランスでドーパミンを調整し、陽性症状と陰性症状の両方に効果があり、副作用もほとんどない第三世代の抗精神病薬となった。

一つ一つの薬には、研究者たちの知恵と努力が詰まっているんだね!

この記事によって、皆さんが薬の研究に興味を持って、調べたり勉強したりするきっかけになれば嬉しいです!

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参考文献
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