【開発ストーリー③】アクテムラ「研究者たちのドラマ」(図解 関節リウマチ治療薬)

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今回は中外製薬の国産初の抗体医薬品「アクテムラ」について開発ストーリーを、図やイラストを用いて解説します。

この記事でわかること
① 自己免疫疾患のメカニズム
② 自己免疫疾患の治療薬開発の世界史
③ アクテムラの研究開発ストーリー
④ アクテムラの作用機序

革新的な薬がどのような経緯で研究開発されたのか興味ある!

わかりやすく教えて欲しい!

新薬開発の成功確率は「3万分の1」と言われています。

そんな奇跡とも言える成功の裏には、様々な分野のプロフェッショナルが力を合わせて、失敗を恐れず果敢に挑んだ「研究者たちのドラマ」があります!

3万分の1って無謀すぎる。。。

そうだよね!今回はそんな研究者たちの挑戦の物語を紐解きます!
新薬開発に関心のある一般の方も理解できるように、わかりやすく説明します!



アクテムラってどんな薬?

アクテムラとは

アクテムラ(トシリズマブ)は、2005年に日本でキャッスルマン病治療薬として発売開始され、その後、関節リウマチなどの自己免疫疾患に適応拡大しています。

アクテムラの売上は、現在もなお増加しており、2020年は年間売上高1737億円を叩き出しました。(参考:中外製薬

アクテムラは、国産初の抗体医薬品です。

アクテムラの発売を皮切りに、中外製薬は、抗体エンジニアリング技術を次々と開発しました。

抗体技術に代表される中外製薬の高い創薬力は、世界中から注目を集めています。

そもそも、自己免疫疾患って何?

自己免疫疾患は、本来は体を守るための免疫系が、自分自身を攻撃してしまい炎症を引き起こしてしまう病気だよ!

自己免疫疾患とは?
【発症の原因】:免疫系が正常に機能しなくなり、自分の組織を攻撃してしまう病気で、根本的な原因はよく分かっていない。
【自己免疫疾患の代表例】:関節リウマチ(30~50代の女性に多く発症)
【関節リウマチの症状】:関節の痛みや腫れが起こり、放っておくと、何年もかけて軟骨や骨の破壊が起こる。
参考:厚生労働省

アクテムラって何がそんなに画期的だったの?

日本発の抗体医薬品’第一号’だったことだね!

順を追って分かりやすく解説します!

〜まずは、アクテムラが開発される以前の自己免疫疾患の歴史から〜

 

自己免疫疾患の歴史(アクテムラ開発以前)

まずは、アクテムラが開発される以前の時代背景を解説します。

当初は対症療法しかなかった

1970年以降に、新たに免疫系に働きかける治療薬が登場するまでは、

鎮痛薬やステロイドなど、痛みや炎症の低減により、症状を和らげる薬しかありませんでした。

何で治療薬が開発されなかったの?

病気の原因がよく分からなかったから、手の付けようがなかったんだ。。。
まずは、原因の解明から進められるよ!

日本人が、免疫細胞同士の’メッセージ物質’を突き止める

抗体

1958年に、ロドニー・ポーターとジェラルド・エデルマンによって、抗体の構造が明らかになりました。(後にこの功績により、ノーベル生理・医学賞を受賞しました。)

しかし、「抗体はなぜできるのか?」「どの細胞が抗体を作るのか?」

など、まだ多くの謎が残されていました。

そもそも抗体ってどんな形をしてるの?

4つの鎖から構成される、「Y字の形」をしたタンパク質だよ!

抗体の構造

抗原(異物)に結合する部位:可変領域」と「免疫細胞に結合する部位:定常領域」に大きく分かれています。

世界中の研究者たちの研究によって、

抗体を作るのに関与している免疫細胞は2種類(T細胞、B細胞)あり、

抗体を実際に作るのはB細胞であるとわかってきました。

サイトカインとは

そんな中、後に中外製薬と共同研究をすることになる、大阪大学の岸本忠三教授は、

B細胞が抗体を作るために、T細胞は何らかのメッセージ物質を放出している」と仮説を立てました。

ちなみに、細胞から放出されるメッセージ物質は「サイトカイン」と呼ばれているよ!

1978年、岸本教授は、B細胞の中にT細胞を加えて培養すると、抗体を作り始めることを発見しました。

これをきっかけとして、研究が進み、約10年の歳月をかけて、メッセージ物質を解明しました。

後に、免疫細胞から放出されるメッセージ物質は「インターロイキン(IL)」と総称され、発見された順に番号が付けられました。

岸本教授が発見したメッセージ物質は「IL-6」と名付けられました。

IL-6は、「B細胞に抗体を作ることを命令する」メッセージ物質ってことだね!

そうだね!

実は、IL-6にはその他にも、様々な役割があることが分かってくるよ!

 

実は、様々な病気に関与していたIL-6

IL-6の具体的な働きについて研究を進めると、様々な病気と関連の深いメッセージ物質であることが判明してきました。

T細胞以外にも、他の免疫細胞、皮膚、関節など、IL-6はあらゆる細胞から放出されて、あらゆる細胞に作用していることが次第に分かってきました。

IL-6って万能なんだね!

自己免疫疾患の研究に取り組んでいた中外製薬は、このIL-6に目を付けていくよ!



アクテムラの開発ストーリー

時代を少し遡り、中外製薬のアクテムラの開発ストーリーを紐解きます。

斬新な仮説を立てる

1981年に、中外製薬は「B細胞の異常な活性化が、自己抗体産生の原因になっている」

という仮説を立てて、B細胞阻害剤の探索を開始していました。

アクテムラ戦略

当時は、T細胞を阻害する薬の研究開発はすでに行われていましたが、

このB細胞を阻害する薬の開発は、斬新であったと言えます。

B細胞が抗体を作っているんだったら、T細胞よりもB細胞を標的にした方が良さそう!

そうだね!
今となっては、当然だと思うけど、当時は「人のB細胞を抑制すれば、免疫系を壊してしまって副作用が大きくなりかねない」という批判が多かったんだ。。。

 

 

中外製薬と大阪大学の’運命的な出会い’

中外製薬と大阪大学の共同研究が始まるきっかけとなったのは、日本炎症学会です。

中外製薬は「B細胞を阻害する薬をつくりたい」

大阪大学の岸本先生は「IL-6の基礎研究の成果を治療に結びつけたい」

と考えていました。

「Il-6が自己抗体を産生するメッセージ物質である」という岸本先生らの発表に、

「これこそが目標とする薬のターゲットだ!」と直感した中外製薬は、

早速、1986年に、大阪大学と「IL-6阻害薬の探索」の共同研究を開始しました。

大阪大学と中外製薬の運命的な出会いだね!

そうだね!
でも、ここから苦難の連続が待ち受けているよ。。。

失敗から始まる

中外製薬は、上図のように、

「IL-6がIL-6受容体に結合して、B細胞に抗体を作るメッセージが伝わってしまう」と考えました。

そこでまず、下図のように「IL-6を細胞外で阻害する薬(可溶性の受容体)」を作ることを目指しました

しかし、仮説は外れました。

可溶性の受容体により、IL-6をトラップしても「逆にメッセージが強く伝わる」という作用が見られたのです。

約3年間にわたる原因究明の末、ようやくIL-6のメカニズムを解明しました。

実は、IL-6のメッセージを伝える経路が他にもあったのです。

‘経路Ⅱ’に示すように、血液や関節液などにも、可溶性のIL-6受容体が存在しており、

IL-6受容体を持っていない細胞にも、作用を発揮してしまいます。

この結果を受けて、可溶性の受容体の開発は中止となります。

せっかく、時間とお金をかけて研究したのに、結局中止になちゃったんだね。。。

そうだね!
この後も、他の化合物をたくさん検討するけど、IL-6を阻害するものは全然見つからなかったんだ。。。

 

苦肉の策’抗体’でチャレンジ

IL-6阻害剤をなかなか見つけることができない中外製薬は、

苦し紛れの戦略として、たまたま手元にあった「IL-6受容体に結合するモノクローナル抗体」を実験してみました。

アクテムラ作用機序、トシリズマブ作用機序

すると、これがIL-6受容体と結合して、IL-6のメッセージを阻害する効果を示したのです。

すごい偶然だ!

そもそも、モノクローナル抗体って何?

一種類のB細胞から作った、一種類の抗体のことだよ!

通常は、体の中には、様々な種類のB細胞がいるから、同じ抗原(異物)から様々な種類の抗体(ポリクローナル抗体)ができてしまうんだ!

モノクローナル抗体とは?モノクローナル抗体の作り方

モノクローナル抗体は、上図のように目的の抗体を作る一種類のB細胞だけを集めて、作られるよ!

何で、この抗体が’苦肉の策’と言われてるの?

今となっては、抗体医薬品は当たり前だけど、

当時は、低分子医薬品が主流で「抗体のようなタンパク質が薬になるはずがない!非常識だ!」と揶揄されていたんだ。。。

さらに、このマウスの細胞から作った抗体は、ヒトにとっては’異物’だから、改良(ヒト化)が必要だったことも挙げられるね!

 

抗体の改良に成功

抗体医薬開発への批判に屈することなく、研究者たちの強い気持ちにより研究は進められました。

1990年には、マウス抗体のヒト化技術を確率したイギリスの研究機関と共同研究を開始しました。

幸運なことに、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる部位さえ残せば、

他の部位は、ヒトの抗体に置き換えても効果は100%保持していることが確認されました。

相補性決定領域(CDR)って何?

相補性決定領域とは?CDRとは?

上図のように、抗原に結合する部位(可変領域)の中でも特に、直接抗体に接触する部位のことだよ!

このヒト化するという発想は、研究者が勉強会でヒト化技術のことを少しかじっていたから生まれたものだと言われているよ!
このことから’広く浅く’勉強することの重要性も学ぶことができるね!

 

臨床試験で効果確認

1995年には、岸本先生らの研究により、関節リウマチ患者の関節中には大量にIL-6が産生されており、これが原因となっていることも突き止めました。

しかし、関節リウマチをはじめとした自己免疫疾患の臨床試験は、なかなか始まりませんでした。

何で、なかなか臨床試験できなかったの?

「倫理面」と「コスト面」での課題がまだあったからなんだ。。。

アクテムラの開発が困難だった理由
① 倫理面:効果が十分ではないが、関節リウマチの治療薬は既にあったため、当時は’非常識’であった抗体を薬として使うことに対して、予想外の副作用の懸念があったため
② コスト面:バイオテクノロジーを用いて細胞に作らせる抗体は、化学反応により大量に作れる低分子よりも製造コストが高いため

 

そんな中、アメリカで同じ関節リウマチの治療薬として、別の作用機序(TNF-αの阻害)をもつ抗体医薬の開発が進んでいるという知らせが飛び込んできます。

このことが、アクテムラの臨床試験開始の追い風となり、臨床試験が始まりました。

2005年にキャッスルマン病の世界初の治療薬として承認され、

2008年には、関節リウマチと全身型若年性突発性関節炎への適応が拡大されました。

20年以上にもわたる長い道のりだったね!

そうだね!
今では、関節リウマチ、若年性突発性関節炎、成人スチル病、高安動脈炎・巨細胞性動脈炎、キャッスルマン病などに適応されて、ロシュの販売網を活用しながら世界中で使われているよ!

アクテムラは、他の薬の研究よりも大学と企業の連携が強かったね!

そうだね!
大学の疾患メカニズムの研究と、製薬企業の創薬の研究が見事に組み合わさった成功例だね!

新薬開発が年々難しくなってきているこれからは、
産学連携や業界を超えた共同研究により、他分野の発想をいかに取り入れるかが重要になってくると言われているよ!



まとめ

まとめると、

・自己免疫疾患の根本的な原因はわかっていない

・IL-6は岸本先生により、抗体を産生するメッセージ物質であることが解明された

・IL-6は様々な病気に関与している

・アクテムラはヒト化抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体として開発され、日本初の国産抗体薬となった

 

一つ一つの薬には、研究者たちの「絶え間ない努力」と「世界最先端の英知」が詰まっているんだね!

時には「非常識だ」という批判を受けながらも、患者さんのためになる薬を作りたいという強い気持ちで努力を続けた研究者の方々は、本当に素晴らしいと思います!

この記事によって、皆さんが薬の研究に興味を持って、調べたり勉強したりするきっかけになれば嬉しいです!

 

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参考文献

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