大日本住友製薬とExscientia(AI創薬を行っているイギリスの会社)は共同研究により、
AIを活用して創製した新薬の臨床試験を日本で開始しました。
(参考:大日本住友製薬「IRニュース」(2020年01月30日))
以前は4年半要すると言われていた研究期間を
AIを用いることで、1年未満で完了することができました。
AIの活用は、創薬の分野でも注目を集めています。
今回は、「AI創薬とは何なのか?」をわかりやすく解説しようと思います。
創薬における課題
まずは、AIを使わなかったときの創薬の課題を説明します。

従来は、鍵穴にはまる鍵を探すために、
薬の候補となる物質(鍵)を作っては、細胞や動物を使った実験を繰り返し行っていました。
しかし、近年は、新薬開発の成功率が大きく減少しています。
具体的には、成功率は「3万分の1」と言われています。
(参考:厚生労働省「臨床研究に関する現状と最近の動向について」)
さらには、開発費1000億円以上、開発期間10年以上と言われています。
下記に、成功率減少の原因をまとめてみました。
・鍵と鍵穴の膨大な組み合わせ
・創薬テーマの枯渇
・予想外の副作用

新薬開発の成功率減少の原因としてまず、
「鍵と鍵穴の膨大な組み合わせ」が挙げられます。
鍵となる新薬の候補は、製薬会社に数万種類(コンピューター上の仮想の物質を含めると更に増大)
鍵穴となる人体を構成するタンパク質は、数10万種類
あると言われています。
HTSと呼ばれる、ロボットを用いて自動でスクリーニングを行っても、検証できる数には限界があります。
次に、「創薬テーマの枯渇」が挙げられます。
人体を構成するタンパク質は数に限りがある上に、
世界中の製薬企業や研究所で、創薬テーマとして有望な標的タンパク質は研究され尽くしています。
さらに、「予想外の副作用」も挙げられます。
実験動物では、安全性が確認できても、
動物とヒトの違いによって臨床試験で予想外の副作用が見つかり、開発中止となることも少なくありません。
そこで、近年では、上記課題を克服するために、
「AIを活用して創薬を効率的に行おう」という試みが盛んに行われています。
AI創薬とは?

AI創薬とは何なのでしょうか?
一言で言うと、
「AIによって、鍵と鍵穴の相性予測を効率的に行う」ことです。
具体的には、
「コンピューター上でタンパク質の立体構造を描き、薬の候補となる化合物との相互作用を正確に計算することで、最適な医薬品を探し出す」ことです。
これでは、わかりにくいと思うので、以下にAI創薬のメリットや課題を交えながら説明したいと思います。
AI創薬のメリット
・スクリーニングの効率向上
・細かい分析ができる
・仮想上の化合物をシミュレーションできる
スクリーニングの効率向上
AIを用いない場合は、膨大な数の鍵と鍵穴の組み合わせを、実験によって検証していましたが、
AIを用いることによって、こうした実験の回数を減らすことができ、
スクリーニングのスピードが速くなります。
さらに、実際に試薬や実験動物を用いた試験を余計にする必要がなくなります。
細かい分析ができる
コンピューター上に、
鍵となる新薬の候補と、鍵穴となる標的タンパク質を、立体的に描き出すことによって、
細かくどの部位が相互作用しているのかを検証することができます。
仮想上の化合物をシミュレーションできる
製薬会社が保有する数万種類の化合物ライブラリー以外にも、
コンピューター上で、仮想の化合物を描き出すことによって、
より多くの鍵と鍵穴の組み合わせを検証することができるようになります。
さらには、今までに検証されてデータが蓄積された
既知の鍵(薬の候補となる物質)と鍵穴(標的タンパク質)の結合するペアを
AIに学習させ、結合のパターンを導き出すことで、
未知の鍵と鍵穴がピタリとはまるかどうかを予測することができます。
AI創薬の課題

主な課題としては、「膨大な計算量」が挙げられます。
なぜなら、鍵穴となるタンパク質の構造は複雑だからです。
まず、タンパク質は巨大な分子です。
分子を構成する原子一つ一つについて運動方程式に当てはめると計算量が膨大になります。
その上、タンパク質は、体内ではフワフワと形を変えながら存在しています。
変形を考慮するためには、タンパク質自身だけでなく、その周囲の水分子も計算に含めなければなりません。
このような課題を克服するための試みとして、
「CGBVS法」と呼ばれるAIを用いた手法がとられています。
具体的には、ピタリとはまる鍵と鍵穴のパターンをAIに学習させ、結合パターンを予測することで、
計算を省略するといったものです。
さらには、「富岳」と呼ばれるスーパーコンピューターを用いて計算能力を高める試みもあります。
京都大学医学研究科奥野恭史教授によると、
万単位の化合物を実験室で数ヶ月かけて実験して候補を絞り込む、製薬会社の現状に対して、
「富岳の能力を最大限発揮できれば1週間まで縮められる」
と述べられています。
> 以下参考文献
まとめ

AI創薬とは、「AIによって、鍵と鍵穴の相性予測を効率的に行う」ことです。
コンピューターだけで新薬の開発が行えるわけではありませんが、
創薬の課題を克服して、開発の成功率やスピードを上げるのに必要な最先端技術です。
AIの得意分野、人間の得意分野それぞれあると思うので、
私自身も、AIについて勉強して使いこなせる研究者を目指したいと思いました。
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