幅広い事業展開で「トータルヘルスケア」企業を目指している
大塚ホールディングス(HD)株式会社を企業分析・企業研究していきます。



就活や転職をしている方向けに、実際に製薬企業で働いている研究者の視点から、わかりやすく解説していきたいと思います。
「企業の業績」と「株価」には密接な関係にあるため、今回は株価を用いて説明します。
就活生にとっては聞き慣れない単語もあるかもしれませんが、わかりやすく解説して行きます。
時価総額(企業としての価値)
大塚HDの時価総額は2.46兆円です。(2021年1月8日時点)
国内の製薬企業では第5位です。
製薬企業の時価総額ランキングは下図にまとめました。(参考:Google Finance)



簡単に言うと、その企業を買収するのに必要な金額だよ!
歴史
初期
1921年に大塚グループとして創業しました。
当初は、化学原料メーカーとして事業を展開していましたが、
1971年創薬研究部門を設立して、自社医薬品の開発に着手しました。
医療関連事業の他に、大塚製薬は、健康の維持・増進のための製品を提供する「ニュートラシューティカルズ(NC)関連事業」を展開していることが特徴です。


そうだね! 次は、株価の推移を参考に近年の歴史を振り返っていくよ!
近年
意外に思われるかもしれませんが、大塚HDは2010年まで株式を上場していませんでした。
まずは、2010以前の歴史を紐解きます。
抗精神病薬「エビリファイ」の大ヒット
2002年に抗精神病薬「エビリファイ」が米国で発売になりました。
エビリファイはピーク時に年間売上高約6500億円を叩き出し、
一躍、大塚製薬はグローバル企業の仲間入りを果たしました。

一つの新薬だけで年6500億円とか凄すぎる。。。
エビリファイって何が画期的だったの?

薬の効果が強すぎず、弱すぎず、「絶妙なバランス」の薬だったことだね!
このことによって、従来薬の課題を克服し、「重篤な副作用のない上に幅広い症状に効く薬」となったんだ!
大塚グループの再編
2008年に大塚製薬、大塚製薬工場、大鵬薬品、大塚倉庫、大塚化学、大塚食品、大塚メディカルデバイスからなる大塚ホールディングスを立ち上げました。(参考:大塚ホールディングス)
2010年には、東証一部に上場し、
2017年には、日経平均株価に採用されました。
エビリファイの特許切れとパテントクリフ(特許の崖)
大型新薬を開発した製薬企業に待ち受ける試錬、それが「パテントクリフ(特許の崖)」です。
2015年、エビリファイも米国で特許切れました。
実際に、エビリファイは、2014年に6542億円も売上げていましたが、
そのわずか2年後の2016年には、954億円と急速に売上を落としました。(参考:大塚ホールディングス)

特許の崖(パテントクリフ)ってよく聞くけど、そもそも何のこと?

新薬の特許が切れて、売上が急落することだよ。
安い後発品(ジェネリック)がたくさん出てきて、急速にシェアを奪われちゃうんだ。

このままじゃ絶体絶命じゃん。。。

ここからが腕の見せ所だね!
4つの新薬
4つの新薬の売上拡大によって、パテントクリフをなんとか乗り切りました。
順に解説します。
「エビリファイメンテナ」は、エビリファイの剤形を改良したものです。
統合失調症の患者によく見られる「錠剤の飲み忘れ」を防ぐ目的で、
月一回の投与で効果が持続する持続性注射剤を開発しました。(参考:大塚ホールディングス)
「レキサルティ」は、ドーパミンとセロトニンを調節する効果を持ちます。
エビリファイは、ドーパミンを調節する薬でしたが、
レキサルティでは、その作用を弱めて、セロトニンを調節する機能を付け加えました。
「サムスカ/ジンアーク」は、水だけを出す利尿薬です。
世界初の難病ADPKDの治療薬としても承認されました。(参考:大塚ホールディングス)
「ロンサーフ」は大塚HD傘下の大鵬薬品によって開発された薬です。
大鵬薬品は経口抗がん剤に強みを持っています。(参考:大鵬薬品)

継続的に新薬を創出して、見事パテントクリフから這い上がったんだね!

この4剤の内、2つはブロックバスター(年間売上1000億円超)だよ!
収益の多様化によって、業績も好調だね!
デジタルヘルス
2017年11月、世界初のデジタルメディスン「エビリファイ マイサイト」の承認を得ました。(参考:大塚ホールディングス)
デジタルメディスンとは、医薬品と医療機器を組み合わせたもので、
ノバルティスなどの巨大製薬企業やグーグルなどの巨大IT企業が開発に乗り出す中、大塚製薬が世界に先駆けて開発に成功しました。
この薬は、服用状況を正しく把握することを目的に、エビリファイの錠剤に極小のセンサーを組み込んだものです。

薬とデジタル技術の組み合わせは画期的だ!

そうだね!
「センサー搭載による高いコスト」や「患者の理解を得る難しさ」など課題は多いけど、医療とデジタルの融合には夢があるね!
現状

大塚製薬の現状を重点領域と最近のニュースから読み解いていきます。
重点領域
大塚製薬は、精神疾患、神経疾患、がん・免疫の3つを最重点領域としています。(参考:大塚製薬)
特に、エビリファイやレキサルティを中心とした精神疾患に加えて、アルツハイマー型認知症の治療薬の研究開発にも取り組んでいます。
ポジテブなニュース
次世代の個別化医療
2020年3月、大塚製薬は、造血器腫瘍を対象とするがん遺伝子パネル検査を開発しました。(参考:大塚製薬)
これは、がんの原因となる遺伝子を見つける検査で、最適な薬を選び出すことに役立ちます。
このように、患者一人一人に合った治療を選ぶ医療は「個別化医療」と言われて、
中でも、遺伝子の情報を元にした個別化医療は、次世代の医療として注目を集めています。
また、同じがん領域では、米アステックスと共同で世界初の経口DNAメチル化阻害薬や、(参考:大塚製薬)
タカラバイオと共同で開発している、がんの遺伝子改変T細胞療法は日本で先駆け審査指定制度の対象品目に指定されました。
以上のように重点領域である「がん・免疫」で新展開が続いています。
精神領域で進むITの活用
2017年に承認されたエビリファイマイサイトに続き、
2019年1月には、米クリックセラピューティクスと治療用アプリの開発で提携しました。(参考:大塚製薬)
デジタルメディスンや治療用アプリなど、ITなどの異分野との融合による医療の最適化を進めています。
ネガティブなニュース
4200億円を投じた成果は?
2014年に大塚製薬は、約4200億円を投じて米製薬ベンチャーアバニア社を買収しました。
目的は、アルツハイマー病を含めた神経疾患領域への本格参入でした。
しかし、2019年9月に公表した臨床試験の速報で良い結果が得られず、株価もそれを織り込むように急落しました。

アルツハイマー治療薬に関しては、世界中の企業が苦戦しているよね。。。

この薬は、アルツハイマー型認知症そのもののではなく、行動障害(アジテーション)を対象した薬だけど動向が注目されているね!
まとめ
大塚HDは、幅広い事業を展開しています。
近年は、年間6500億円を売り上げた「エビリファイ」のパテントクリフに直面していましたが、
「精神疾患」「神経疾患」「がん・免疫」を重点とした多様な新薬の展開により、業績は回復しました。
また、各分野で新たな挑戦を進めています。

以上、大塚HDについて分析してみました!
この記事によって、皆さんが製薬企業に興味を持って、調べたり勉強したりするきっかけになれば嬉しいです!
参考文献
さらに詳しく知りたい人は、下の文献がおすすめです。
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